「吃音」と脳の関係

ここでは吃音と脳の関係について考えてみます。最近では吃音は脳の障害だという説や、吃音者特有の脳の働きがあるなどという情報も目にします。そこで、右脳優位説・脳内伝達物質説・条件反射説を中心に取り上げてみたいと思います。

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右脳優位説

まず、有名なのが右脳優位説です。こちは、吃音者は話す際に右脳が活動してしまっていることが原因とするものです。古くは1931年にリー・エドワード・トラヴィスが提唱し、現在でも研究が続けられています。主に右脳は運動や感覚に関係し、左脳は論理的思考などに使われるとされています。言語をつかさどる部分も左脳にあるとされています。ですので、言葉を話す際には左脳が活発に活動しているはずなのですが、吃音者は右脳が活動していたり、左右の働きに違いがなかったりするという研究結果が発表されました。こちらは現在でも研究途中であり、国立障害者リハビリテーションセンター広報誌にも研究結果が掲載されています。
この説は多くの方に信じられていますが、その理由は「しっくりくる」という点です。まず、右脳と左脳という特定の身体の部位が原因だと特定さえていることです。吃音の原因はさまざまで、いくつもの要素が重なって発症すると考えられていますが、特定されると安心する心理も働きます。また、この説で説明がついてしまう事が多いという事です。女性は左脳の発達が早いという事も知られていますが、それと照らし合わせると女の子の方が言語の発達が早かったり、吃音の男女比率では圧倒的に男性が高いことも説明がついてしまいます。更に、右脳は直観や芸術的センスに影響すると言われますが、吃音者に芸術分野で成功している方が多いというのも納得できます。
しかし、未だ研究途中であり、反対意見もあるのが実情です。まず、言語をつかさどる部分が左脳にあるとは言い切れないという点です。てんかんや脳の手術前の検査などに「和田テスト」というものが用いられます。これは、脳を半分づつ機能を低下させ、その影響を確認するものですが、この統計結果によると、言語の機能(話す、理解する、読む、書く等)を左脳で行っている割合は、右利きの95%、左利きの70%とされています。左脳の割合は多いものの、そうでない人も一定割合で存在し、その方全てが吃音者ではない訳です。
また、右脳優位が吃音の原因なのか、吃音だから右脳優位なのかも分かっていません。吃音者の中には話す時に身体がある動きをしてしまう不随意運動をともなう場合もありますが、これが右脳を活発化しているという説もあります。まさに「卵が先か鶏が先か」という話と同じです。
ですので、未だに研究途中であり、もしそうだとしてもこれで治療法が確立できた訳でもありませんし、左脳を訓練することもできません。このような研究も進んでいるということを頭の片隅に置いておく程度でいいでしょう。

脳内伝達物質説

脳内伝達物質のバランスが崩れることで吃音を発症しているという説です。
まず、ドーパミンの過剰分泌によるというものです。ドーパミンは、運動やホルモン調節などに関係する物質で、アドレナリンの前駆体でもあります。「アドレナリンが出る」という言葉があるように、ドーパミンが分泌されアドレナリンが増えることによって興奮状態になります。ADHDやチック症などにもドーパミンの過剰分泌が見られるとの研究結果もあるため、特に幼少期の吃音ではドーパミンの影響が関連付けられている傾向があります。ただし、こちらも研究段階で、ドーパミンの過剰分泌が原因ではなく、吃音によってドーパミンが分泌されているのではないかという考えもあります。「また吃音がでてしまうのではないか」「うまく声がでないのではないか」という不安や緊張が無意識に体の興奮状態を呼んでドーパミンを分泌させているのかもしれません。
次に、セロトニンが不足しているという説です。セロトニンは「幸せホルモン」とも呼ばれ、血管の収縮コントロールや体温調節を行うのとともに、感情のコントロールやイライラを制御したりします。調度ドーパミンと逆の働きを行うため、ドーパミンとのバランスも重要になってきます。セロトニンが減少することで、感情コントロールができなくなり、ネガティブな思考に陥りがちになると言われています。また、睡眠不足になり、ストレスに弱くなってしまうとも言われています。しかし、こちらも同様で、吃音に悩んでいるからこそセロトニンが減少しているのかもしれません。セロトニンと吃音の関係も現在研究途中です。

条件反射説

最後に、脳の学習によって吃音を繰り返してしまうというものです。特に、無意識のうつに体が反応してしまう条件反射です。
「パブロフの犬」という言葉をご存じでしょうか?これは、旧ソ連の生理学者イワン・パブロフによって有名になった実験で、犬にある音を聞かせてから餌を与えるということを繰り返した結果、犬がその音を聞いただけで唾液が出るようになったという実験です。自分ではコントロールできない事も、同じことを繰り返すことでそのような現象が表れるという代表的な例です。
同じような経験はないでしょうか?ある時間や特定の場所に行くとトイレに行きたくなったり、電車やバスで座った途端に眠くなったり、だれでも1つは経験があるでしょう。これと同じことが吃音にも関係していると言われています。話すと思うだけで脈拍や血圧が上がってしまったり、体が震えてしまったりする方も多いでしょう。これもある意味、脳が関係していると言えます。
しかし、この場合には訓練することで改善可能です。過去の経験で学習したことによってこのような症状が出ているわけですので、新しい経験を積むことで解消できます。

まとめ

繰り返しになりますが、吃音と脳の関係は研究途中です。また、どれも吃音の原因とは言い切れず、むしろ吃音が原因の脳の現象とも考えられます。ですので、重要なのは「いい方に解釈する」ということです。脳に原因があったと考えることで安心できたり前向きに考えられる方は、そう解釈した方がいいでしょう。逆に「脳に障害があるなんて」とネガティブに考えてしまう方は、このような研究が進められているという事を参考にする程度で大丈夫です。重要なことは、ご自身でレッテルを貼ってしまわないということです。

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